書誌情報
- 著者:ジェイムズ・P・ホーガン(James P. Hogan)
- 訳者:池央耿
- 出版社:創元SF文庫
- 初版刊行:1980年5月23日(原書:1977年)
- 読了日:2019年7月21日
- 読書形態:文庫本
あらすじ
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。(創元SF文庫あらすじより)
感想
「おすすめのSFない?」と聞かれたら、真っ先に推す一冊
名作と言われる理由が、読み終えた瞬間に心から腑に落ちた。出会うことができて本当によかったし、「SFが好きでよかった」と改めて噛み締めた作品だ。
誰かに「何かおすすめのSF小説ない?」と聞かれたとき、自分はとりあえず迷わずこの『星を継ぐもの』をおすすめしている。ハードSFというジャンルに敷居の高さを感じている人にこそ、真っ先に手にとってほしい傑作だ。
途轍もなく途方もない謎から始まる面白さ
本作の最大の魅力は、冒頭から提示される謎のスケールの大きさにある。
月面で発見された、真紅の宇宙服を着た死体「チャーリー」。人類が月に進出したばかりの時代に、すでに先客がいたというだけでも驚きだが、調査の結果判明したのは「死後五万年が経過している」という衝撃の事実だった。五万年前といえば、地球上ではネアンデルタール人やクロマニョン人が生息していた石器時代。そんな時代に、高度な宇宙服を着て月面に降り立っていた人物がいたのだ。
さらに、木星の衛星ガニメデからは、地球外生命体のものとおぼしき巨大宇宙船の残骸が発掘される。
「この死体は何者なのか?」「地球の現生人類とどうつながっているのか?」「人類の進化の歴史に何が起きていたのか?」
提示されるピースの一つひとつがあまりにも魅力的で、ページをめくる手が止まらなくなる。
SFの本質は「現実よりもリアルであること」
SF小説というと、往々にして「現実にはあり得ない突飛な設定」や「派手な未来技術」が求められているように思われがちだ。しかし、個人的には**「実は現実よりもリアルであること」**こそがSFの醍醐味なのではないかと思っている。
『星を継ぐもの』の白眉は、まさにこの「リアルさ」の追求にある。 謎の死体や宇宙船に対して、世界中の各分野の科学者たち(物理学者、天文学者、生物学者、言語学者など)が集まり、喧々諤々の議論を交わす。一つの仮説が立てられては新たな観測データによって覆され、また別の角度から論理的なアプローチが試みられる。
この過程が、まるで極上の科学ミステリを解き明かしていくかのように緻密でスリリングだ。荒唐無稽なアイデアを論理と科学の言葉で丁寧に積み重ね、読者を「これなら本当に起こり得るかもしれない」と説得してしまう力。それこそがハードSFの真骨頂であり、本作が放つ圧倒的なリアリティの源泉なのだと思う。
私が『星を継ぐもの』をおすすめする3つの理由
- 「月面で5万年前の死体を発見」という圧倒的なフック
あらすじを読んだだけでも好奇心をくすぐられる、完璧なプロットの導入部。 - 人類の進化と宇宙の謎に迫る知的好奇心の刺激
単なるアドベンチャーにとどまらず、人類という種のルーツや宇宙の歴史そのものへと視界が広がっていくスケール感。 - 科学的探究と謎解きのカタルシス
知性と論理の力で世界の謎を解き明かしていくプロセスが最高に心地よく、読後に深い感動と余韻を残す。
あわせて読みたい作品
『星を継ぐもの』が気に入った方には、あわせて筒井康隆さんの『旅のラゴス』もおすすめしたい。
『星を継ぐもの』が外宇宙や科学の論理を通じて人間の知性を描く傑作だとすれば、『旅のラゴス』は内省的かつ詩的な旅路を通じて人間の精神と知的好奇心を描く名作だ。アプローチは全く異なるものの、「人間とは何か」「知る旅とは何か」という根源的な問いに向き合うワクワク感には通底するものがある。
何年経っても色あせない、まさにSFの金字塔。SFを普段読まない人にも自信を持っておすすめできる一冊だ。