概要

AIエージェントの統制が「禁止リスト」になりがちなのは、判断の軸がひとつしかないからだ。使うか、使わないか。許すか、許さないか。

だが、実際のリスクは二次元で決まる。どんなデータを扱うか と、何をさせるか だ。公開情報の要約と、顧客の個人情報を外部APIに送るのでは、同じ「AIを使う」でもリスクが違う。ファイルを読むのと、シェルを実行するのでは、同じ「ツールを使う」でも危険度が違う。

この2軸で整理すると、禁止を「条件付きの許可」に分解できる。


2つの軸

データ区分

  • 公開: すでに公開されている情報。マーケティング資料、公開ドキュメント、OSSのコード
  • 社内: 社内限定だが、漏れても直ちに重大な損害にならない情報。議事録、設計メモ、社内Wiki
  • 機密: 漏れると契約・信用・競争力に影響する情報。顧客情報、未公開の財務、ソースコード、NDA対象
  • 制限: 漏れると法令違反や重大な被害になる情報。個人番号、医療情報、認証情報、決済情報

操作区分

  • 読む・加工する: 要約、検索、分類、変換
  • 書く: ファイル作成、コード変更、DB更新
  • 外に送る: メール、Webhook、外部API、検索クエリへの埋め込み
  • 実行する: シェル、クラウド操作、インフラ変更、不可逆な操作

マトリクスの例

これは出発点であり、組織の規程に合わせて調整する。

データ区分読む・加工書く外に送る実行する
公開許可許可許可サンドボックス内で許可
社内許可作業ディレクトリ内のみ許可承認承認
機密ローカル/私設環境のみ承認+出力先を限定禁止(例外は二重承認)禁止(必要なら隔離環境)
制限人間のみ人間のみ禁止禁止

ポイントは、「機密だから全部禁止」にしない ことだ。機密でも、ローカルモデルでの要約や、読取り専用の検索は許可できる。禁止するのは、外部送信や実行など、影響が大きい操作に絞る。


具体例

Web検索

  • 公開情報の調査: 許可。ただし検索プロキシ経由(セキュア検索)
  • 社内情報の調査: 許可ドメインを社内Wikiと公式ドキュメントに限定
  • 機密情報の調査: 禁止。検索クエリに機密を混ぜる経路を塞ぐ
  • 制限情報: 禁止

モデルの選択

  • 公開: クラウドモデル可
  • 社内: ZDR/学習オプトアウト済みのクラウド、またはローカル
  • 機密: ローカルまたは私設デプロイのみ
  • 制限: エージェントに渡さない。人間が直接扱う

MCP

  • 公開: 読み取り専用のMCP可
  • 社内: 許可リストのMCPのみ。書込みは承認
  • 機密: 外部MCP禁止。ローカルの読み取り専用MCPのみ
  • 制限: MCP禁止

コードエージェント

  • 公開リポジトリ: bash 可。ただしサンドボックス内
  • 社内リポジトリ: 読取り・編集可。git push と外部送信は承認
  • 機密リポジトリ: ローカルモデル、ネットワーク遮断、出力先限定
  • 認証情報: エージェントの環境に置かない。必要なら短命トークンを都度発行

実装に落とす

マトリクスは、文書だけでは機能しない。実行層に落とす必要がある。

  • ハーネスの権限: allow / ask / deny を、データ区分と操作区分に対応させる
  • ネットワーク: egressを許可リストに限定し、区分ごとにプロファイルを分ける
  • 認証: トークンのスコープを操作に合わせる。読取り専用、書込み、外部送信を分ける
  • 承認: 高リスク操作は、対象・引数・有効期限に紐づけた承認にする
  • ログ: どの区分のデータを、どの操作で、どこへ送ったかを記録する

運用のコツ

分類を安くする

分類が面倒だと、現場はラベルを付けない。ファイルの場所、リポジトリ、プロジェクト、データベースの列など、既存の境界から自動的に分類 できるようにする。人間に毎回聞かない。

デフォルトを安全側にする

新規プロジェクトは「社内」から始める。公開するときは明示的に下げる。機密は明示的に上げる。何もしないと安全側 が原則だ。

例外を速くする

全部を審査すると、現場は迂回する。低リスクの例外は自動承認、高リスクだけ人間が見る。例外の履歴は、ポリシー改善の材料になる(守れないルールは守られない)。

定期的に見直す

モデル、ツール、データの置き場所は変わる。四半期ごとにマトリクスを見直し、実際のログと突き合わせる。使われていない禁止項目は、形骸化している可能性がある。


まとめ

「使うか使わないか」の二択をやめ、データ区分×操作リスク で考える。公開情報の要約は許可し、機密の外部送信は禁止する。同じAIでも、条件によって許可の形を変える。これが、AIの能力を殺さずにリスクを下げる一番現実的な方法だ。


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参考資料