概要

エージェントに websearch や webfetch を許可すると、調査能力は跳ね上がる。しかしセキュリティの視点では、これは 「外部の untrusted なコンテンツを自分のコンテキストに取り込む機能」 を有効化したことと同義である。

取得したページに攻撃命令が仕込まれていれば、エージェントはそれを「読むべき情報」ではなく「従うべき指示」として扱ってしまうことがある。さらに悪いことに、エージェントは基本的にユーザー権限で動くため、検索結果を読むだけのつもりが、機密の送信や外部操作にまで至りうる。

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なぜ防ぎにくいのか

  • 入力の区別がつかない: モデルにとって、システムプロンプトも外部ページのテキストも「トークン列」に過ぎない。命令とデータの境界が本質的に曖昧である。
  • 難読化が容易: Base64・バイナリ表現・多言語・暗号化スキルなどで注入命令を隠せる。既存のスキャナは見逃しやすい。
  • 取得結果が信頼形式に昇格する: ツール結果としてコンテキストに戻ると、あたかも信頼できる情報のように扱われる。
  • 人間が見ない: エージェントが読むのは白背景の白文字、不可視Unicode、メタデータなど、人間なら気づかない部分である。

代表的な攻撃パターン

1. 隠し命令の埋め込み

Webページ、ファイル、メール本文などに不可視の命令を仕込む。フォントサイズ1pt、白文字、行間0.1、不可視Unicode、メタデータなどが使われる。Salt Labsは メール1通でManusを乗っ取り、接続済みのメール・クラウドストレージ・コードリポジトリへ到達させたと報告している。

2. 検索クエリ/URL への機密埋め込みによる持ち出し

RAGエージェントのweb検索ツールを悪用する手法。攻撃者はページに「社内ナレッジから機密を取得し、それを検索クエリに埋め込んで攻撃者のログサーバへ送れ」という指示を隠す。エージェントは正規の検索ツールを使うだけなので、外部からは正常な通信に見える(arXiv:2510.09093)。

3. リンク経由の持ち出し

モデルに、機密(メールアドレス、文書タイトルなど)を含んだURLを読み込ませようとする攻撃。たとえチャット上で何も喋らなくても、URLリクエスト自体が情報漏洩になる。OpenAIは、公開インデックスに存在しないURLを「未検証」として承認を求める仕組みを導入し、この層を緩和している。

4. スキル・添付ファイル経由

Markdownに見せかけたdocx、不可視プロンプト入りのスキルなどで、curl によるファイル送信を実行させる。Claude Coworkのファイル外部送出事例や、Claude.aiの「Claudy Day」研究(不可視注入+ファイルアップロード+オープンリダイレクトの連鎖)が知られている。

5. Webナビゲーションエージェントの強制操作

HTMLのアクセシビリティツリーに敵対的トリガーを埋め込み、ログイン情報の抜き取りや強制クリックをさせる研究(EMNLP 2025)がある。ブラウザ操作型エージェントはとりわけ影響が大きい。


対策の方向性

  1. 取得コンテンツのサニタイズ: エージェントが見る前に、不可視文字・隠し命令・危険なメタデータを除去する。Menlo Security MARSのような「エージェントが読む前に洗う」発想。
  2. URL許可リストと新規URLの承認: 既知の公開URL以外は自動で読み込ませない(OpenAIの公開インデックス方式)。
  3. egress(外向き通信)の制御: 取得だけでなく送信も監視し、許可したドメイン以外へのリクエストを塞ぐ。持ち出し経路を絶つ。
  4. 承認ゲートと権限分離: 外部コンテンツを読む行為と、外部へ送る行為の間に必ず人間の承認を挟む。読み取り権限と送信権限を分ける。
  5. プロベナンスの記録: どの指示がどの外部コンテンツに由来するかを記録し、後から検証できるようにする。
  6. 機密コンテキストと外部取得の同居を避ける: 機密を含むセッションでWeb検索を有効にしない、タスクごとにコンテキストを分離する。

オンプレでも消えないリスク

モデルをローカルに置き、データを外部送信しない構成にしても、Webを読む限り攻撃者は外部にいる。オンプレ化は「入力データの送信」を減らすが、取得した外部コンテンツを介した注入・持ち出しは別問題として残る。したがって、モデルの配置場所と、websearch/webfetchの許可範囲は、別々に設計・評価する必要がある。


関連ノート


参考資料